(1)研究背景

[日本人の死因]
 日本人の約6割が三大生活習慣病である悪性新生物(癌),心疾患(心臓病),脳血管疾患(脳卒中)で亡くなっている.(右図参照)このうち,心疾患,脳血管疾患の主な原因が動脈硬化である.
 動脈硬化は加齢とともに進行していくが,その進行度合は日常生活の習慣や家庭環境,社会環境に影響される.そのため,動脈硬化症(動脈硬化が原因で起こる病気)が発症する時期は人によって異なる.動脈硬化の進行度合を早期に検査し,予防と治療にあたることは非常に重要である.
 動脈硬化の診断法には診断する血管によって異なるが,血管撮影による診断やエックス線CT検査,超音波断層法,超音波ドプラー法などさまざまな方法がある.その中のひとつで,超音波診断装置を用いて頸動脈の血圧と血流速を測定し,
Wave Intensity (以下,WI )とよばれる心臓の収縮力を示す指標を算出することで動脈硬化の進行度合を診断するWI計測という診断法がある.われわれはこの診断法に注目し,現在のWI計測における問題点の解決とWI計測を支援する新たな計測ロボットシステムの研究開発を行っている.


2007年 厚生労働省 人口動態調査
[Wave Intensity]
 Wave Intensityは心臓から抹消へ向かう前進波と抹消から心臓へ向かう反射波による合成波形である動脈の血圧と血流速度の波形がどちらの影響が優勢であるカを判別する指標としてPakerとJonesが提案した指標であり,音波の強度と同じ単位であることからそのように呼ばれるようになったものである.WIはその正負の符号が持つ物理的意味(前進波と反射波の影響の優劣)にのみ注目されてたが,姫路獨協大学の菅原教授の研究によりWIの大きさが重要な生理学的意味を持つことが明らかになり,血流力学の新たな指針として注目されている.
 WIは血圧(P)と血流速度(U)の時間微分値の積

によって求められる.WIの特徴は循環器系の状態変化に非常に鋭敏である.この特徴が血流力学の新たな指針として注目されている要因であり,現在は特に心臓の収縮力を知る手段として用いられている.
 動脈硬化の進行度合は左図のCompression Wave(以下,W1)とExpansion Wave(以下,W2)の大きさに影響を与える.動脈硬化が進行し血管が硬くなるにつれてW1の大きさは減少し,W2の大きさは増加する.W1とW2は次式のように表される.
 ここで,ρは血液密度,βはスティフネス・パラメータと呼ばれる定数で血管の硬さの程度を表す.計測によって得られたW1,W2の値からβの値を算出することで動脈硬化の検査を行う.

[WI計測の問題点と本研究の目的]
 従来のWIの計測方法としては,超音波プローブを手でささえたり,固定器具で支える方法がとられてきた.手で支えた場合の利点は位置調整が容易なことであるが,ずっと同じ位置で保持することが困難で医師の負担が大きい.一方,固定器具を用いた場合は位置保持の負担は小さいが,微調整が困難で操作性が悪く,計測点がずれるたびに調整しなおさなくてはならず,かえって計測時間の長大化を招いて患者の負担を増加させていた.
 そこで,本研究ではWI計測にロボットシステムを導入し,しっかりとした固定と操作性のよい微調整を実現することにより,計測時間の短縮と医師・患者の負担の軽減を達成することを目的とした.



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(2)ハードウェア構成

[システム概要]


頸部血流計測ロボットシステムはプローブ保持ロボット,コントローラ,超音波診断装置から成る

[プローブ保持ロボット]


大まかな位置合わせ
(ワンタッチで固定/非固定の切り替え可能,パッシブ)
 ・固定アーム
 ・ボールジョイント


微調整
(コントローラで操作,アクティブ)
 ・プローブマニピュレータ
[プローブマニピュレータ]
   プローブ保持ロボットは直動型6自由度パラレルリンク機構を有しており,リンク部の構造はスチュワートプラットフォーム型と似ているが,違う点はリンク部とアクチュエータ部に分かれていることである. このような構成にすることにより,リンクを細くすることが可能となる.それによりリンク同士が干渉しにくくなるので,可動範囲を広く取れるようになった.
 大きさは直径100[mm],全長340~400[mm]で,重さは約2.0[kg]となっている.  リンク配置の設計には遺伝的アルゴリズムを適用し,最適化を図った.


[リンク]
 リンク部は,リンク1本当たり,リニアアクチュエータ(1-DOF),ユニバーサルジョイント2個(2-DOFx2),ベアリング(1-DOF)の計6-DOFから構成されている.また,リンクの太さは3[mm]で,ユニバーサルジョイントの可動角は45[deg]となっている.
[アクチュエータ]
 アクチュエータ部はDCモータとボールネジから構成されており,リニアブッシュを通してシャフトを伸縮させている.


[固定アーム]
 固定アームは動力を持たないパッシブな機構で全6自由度を有しており,各関節に備わる無励磁作動電磁ブレーキで任意の姿勢で固定することが可能である.アームの自重は根元の定荷重ばねで補償しており,鉛直方向の移動も軽く動かすことが可能である.
 固定アームはスイッチを押している間だけ固定が解除されるため,スイッチを切り忘れて固定が解除されたままになる危険性がない.また,無励磁作動電磁ブレーキを使用しているため,停電などの非通電時もアームがフリーになったままになるという事故が起きない.また,ブレーキの固定力は人の力で動かせる程度であるため,医師や患者が危険を感じた場合に固定状態でもすぐにアームを移動させることができる.


 自重補償機構は,関節左右のモーメントアームをつりあわせるためスライドガイド上に定荷重ばねを配置することにより構成した.また,ばね荷重の非直線性を補償するため,スライドガイドの傾きを微調整できるようにした.これにより,ほぼ完全な自重補償となっている.

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[プローブ固定用ボールジョイント]
 固定時は永久磁石のネオジム磁石の吸着力により摩擦を発生させて固定,解放時には電磁石の吸着力を用いて永久磁石の吸着を引きはがすことでボールジョイントをフリーにしている.


[プローブコントローラ]

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 プローブコントローラにはレーザーマウス,加速度センサ,ジャイロセンサ,フォトセンサを用いている.X,Y軸方向の並進にはレーザーマウスを用い,Yaw軸回転は2つのレーザーマウスを組み合わせることで検出する.Roll,Pitch軸回転は加速度センサとジャイロセンサを用いている.Z軸方向並進はフォトセンサで検出する.コントローラを把持部と接地部に分けることで角度入力をしたときにレーザーマウスが地面から離れてしまう事を防いだ.




(3)臨床試験

 医師および検査技師による計測試験を行った.上のグラフは,従来のプローブを手で保持する方法,市販の固定器具を用いる方法,本ロボットシステムを用いる方法の3通りの計測時間を比較したものである.本ロボットシステムによる計測時間の短縮が示されている.また,下のグラフは2008年に行ったマニピュレータの可動範囲を広げる改良による効果を測定するため,本ロボットシステムを使った位置あわせの際に広がった可動範囲を使用した割合を示したものである.6割以上の頻度で拡大した可動範囲を使用していることが示された.医師からはロボットシステムは直感的で操作しやすいとの評価を得た.

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(4)リンク

ソリッドワークス・ジャパン株式会社