WL-16は,汎用移動モジュールとしての2足歩行ロボットを実現するため,可搬重量が大きいこと, 高剛性であること,低コストであることなど,多くの機能要求がありました. これらを満足するため,私たちはスチュワート・プラットフォームと呼ばれる6自由度パラレルメカニズムを採用しました. これは,並列に連結された6本の伸縮するリンクが協調して動作することにより6自由度の位置決めを行う機構で, 従来の2足歩行ロボットの脚機構に比べ位置精度が高い,機構剛性や出力が高いといった長所があり, これを脚機構に用いることにより,軽量化を図りつつ機構剛性を向上させることが可能になりました. また,バックラッシュを最小限に抑えるべく,ヒーハイスト精工株式会社の協力により新たに開発した 3自由度受動ジョイントを脚部に搭載しています.
WL-16の歩行制御には,私たちが1987に基本理論を発表し,これまで研究を発展させてきた, 「ZMP安定判別規範に基づくモーメント補償軌道算出アルゴリズム」という 2足歩行制御方式を用いています. ZMP(Zero Moment Point)とは,歩行中のロボットにかかる 重力と慣性力によるモーメントが0になる路面上の点をいいます. 両足または片足の足底により形成される支持多角形の内側を移動するようなZMPの軌道を あらかじめ任意に定めておき,実際のZMPがその軌道を満たすような ロボットの運動を歩行パターンとして求めることで,安定な歩行を実現しています. 歩行パターン作成時には,ロボットに乗っている人の重心位置や慣性モーメントなどの 力学的パラメータが必要です.しかし人間の力学的パラメータの測定は非常に難しく, また人間がロボットの上で少しでも動くと変わってしまうため, 事前にそのパラメータを得るのは困難です. そこで,WL-16では,仮想コンプライアンス制御という制御法を用い, 足部にやわらかさを持たせることによって,積載物の力学モデル誤差や 路面の凹凸などが多少あった場合にも,安定した歩行を可能にしています.
WL-16の仕様は以下の表に示す通りです.
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WL-16はこれまでに,以下のような歩行に成功しています.
今後は,より速い速度での歩行,階段の昇降,エネルギ効率の改善,不整地歩行制御, 搭乗する人間の力学モデルや運動の影響をフィードバックするインテリジェントな積載歩行制御法の構築なども含め, さらに実用に足る汎用2足移動モジュールの開発を進めてゆきます. 真に実用的な2足歩行ロボットの開発を目指す私たちの旅は,まだ終わりません. |