骨盤運動に着目した2足走行ロボット

WATHLETE-1

開発の歴史

  1. 2013年
  2. 2014年
  3. 2015年
  4. 2016年
  5. 2017年
  6. 2018年

2013年

■ 骨盤運動と脚弾性を活用した走行モデルの考案

Fig. 1 SLIP2モデル

 人間の走行運動の模擬を目的に,人間の走行運動の調査を行い,人体計測データから前額面の骨盤運動に着地衝撃吸収や蹴り出す力の補助への寄与が示唆されました.そこで,既存のSLIP モデルに骨盤部を加えたSLIP2 (Spring Loaded Inverted Pendulum using Pelvis)モデルを考案し,これに基づく骨盤振動による跳躍制御を開発し,シミュレーションにより跳躍運動および着地位置制御による走行運動を実現しました.
  また,0.1[m]の高さから落下させた場合の着地および跳躍について,人間のような重心の振動に対して位相がずれた骨盤運動の影響を検証しました.その結果,位相のずれにより,着地衝撃吸収の効果や蹴り出す力の補助への影響が異なることが確認されました.

SLIP2モデルを用いたシミュレーション

[関連論文]
・Takuya Otani et al., "Utilization of Human-Like Pelvic Rotation for Running Robot," Front. Robot. AI Vol.2, No. 17, June, 2015. doi: 10.3389/frobt.2015.00017.

■ 骨盤

骨盤CAD図

Fig. 2 骨盤CAD

 先行研究により,走行運動中の人間は単質点ばね系としてモデル化可能な事がわかっています.そのため本走行ロボットでは脚に弾性体を用いて走行のダイナミクスを積極的に利用し,走行運動に必要なエネルギーの確保に努めています.
  走行運動解析結果より,人間は前額面において骨盤を正弦波状に動かしており,その動きは跳躍の補助などへ寄与しているという知見を得ています.そのためDCモータを搭載した骨盤(Fig. 2)を製作し正弦波状に運動させることで,弾性を有する脚の共振を励起し,ロボットの跳躍を実現します.

■ 直動関節脚

直動脚と骨盤

Fig. 3 直動関節脚と骨盤

Fig. 4 直動関節脚配置

 先行研究により,走行運動中の人間は単質点ばね系としてモデル化可能であることがわかっています.また,その際の脚のばね定数は走行速度に応じて変化します.そのため圧縮ばねを用いた直動関節脚を製作し実験しました(Fig. 3).
  直動関節脚内部(Fig. 4)の圧縮ばねは交換可能であり,ばね定数の異なるばねを用意する事で様々な弾性を設定し実験を行いました.

■ 骨盤運動と脚弾性を活用した跳躍運動の実現


 Fig. 5 人間の骨盤の運動や
 脚の弾性要素を再現したロボット
  骨盤の正弦波状の運動や,その運動による脚の弾性要素を効果的な利用などの人間の力学的特性を再現した跳躍運動が可能なロボットの開発をした.
  跳躍実験の結果,骨盤を2.0[deg]の振幅で正弦波状に運動による跳躍高さ11[mm]の跳躍運動が実現でき、跳躍運動における骨盤運動と脚弾性の有効性を示唆することができました.

骨盤の運動と脚の弾性要素を用いた跳躍実験
重量: 55[kg]
脚弾性: 16[kN/m]
共振周期: 0.37[s]

[関連論文]
・ Takuya OTANI et al., "Running Model and Hopping Robot Using Pelvic Movement and Leg Elasticity," Proceedings of the 2014 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2014), pp2313-2318, Hong Kong, China, May 2014.

■ 回転関節脚

回転関節脚CAD図

Fig. 6 回転関節脚CAD図

弾性調節のしくみ

Fig. 7 弾性調節の仕組み

 先行研究により,走行運動中の人間は単質点ばね系として,さらに膝関節および足関節はねじりばねにモデル化可能であることがわかっています.また,その際の脚のばね定数は走行速度に応じて変化します.そのため板ばねを用いた可変弾性機構を持つ回転関節脚(Fig. 6)を製作しました.
 可変弾性機構(Fig. 7)には板ばねを用いており,荷重支持ローラの位置を変えることで板ばねの有効長を変え,関節の弾性を調節します.また,広い範囲の弾性を実現するため,各関節につき2枚の板ばねを使用しています.

■ 板ばねを用いた弾性可変機構を持つ回転関節脚


Fig. 8 板ばねを用いた弾性可変機構
を持つ回転関節脚
  走行中における人間の立脚の膝・足関節の運動の模擬の目標とし、板ばねを用いた弾性可変機構を持つ回転関節脚の開発を行いました.
  その結果弾性可変機構によって人間の高速から低速走行時の膝および足関節の弾性値を実現しました.また,手により垂直下向きの荷重を周期的に機体へ印加する事により,回転関節脚を共振させ約10[mm]の跳躍を実現しました.
外力印加による共振実験

[関連論文]
・ Takuya OTANI et al.,"Leg with Rotational Joint That Mimics Elastic Characteristics of Human Leg in Running Stance Phase," Proceedings of the 14th IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots (Humanoids 2014),pp. 481-486,Madrid, Spain, November, 2014.

■ 骨盤回旋運動を利用した走行制御



Fig. 9 骨盤回旋運動を利用した走行制御
骨盤運動と脚弾性を活用した走行モデル
  人間の走行時の骨盤回旋運動の模擬を目的とした既存のSLIPモデルに骨盤回旋軸を加えたSLIP2モデルを用いて骨盤回旋運動の影響の検証を行いました.その結果骨盤回旋により股関節が重心に対して後方に位置することから,上体を安定化させるためにより大きな股関節伸展トルクが必要となるため,走行速度の増大につながることが判明しました.また先述に基づく骨盤回旋運動による走行制御を開発し、シミュレーション上での骨盤回旋による走行の再現が可能となりました.
骨盤回旋を用いた走行シミュレーション

[関連論文]
・ 大谷他,“骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発 (第4報: 骨盤回旋運動を利用した走行制御),”日本ロボット学会第31回記念学術講演会予稿集,1C1-03,東京都,2013年9月.

2014年

■ 骨盤

腰部機構

Fig. 10 腰部機構

2012年度に開発した骨盤の骨盤Roll軸と股関節Roll軸における減速機の強度不足により,目標の走行速度4[m/s]における振幅5degの骨盤揺動を模擬した跳躍が実現できなかった.そこで,2013年度では減速機として使用しているハーモニックドライブの安全率を見直し,関節の強度を向上させた骨盤を開発した.また,股関節間距離をより人間に近い180[mm]として設計し走行時にかかる負荷を低減させた.


■ 着地時間推定を用いた連続跳躍

 シミュレーションにより,重心の鉛直方向の運動と立脚期の骨盤揺動の位相ずれが跳躍高さを減少させることが分かったため,各着地時の骨盤初期角度を同一にすることで位相ずれを解消するための着地時間推定を搭載しました.これにより,実機体による跳躍実験において,跳躍高さが増大してもその後減少することなく,連続跳躍運動が可能となりました.
 連続跳躍実験

[関連論文]
・ Takuya Otani et al., "Utilization of Human-Like Pelvic Rotation for Running Robot," Front. Robot. AI Vol.2, No. 17, June, 2015. doi: 10.3389/frobt.2015.00017.

■ 膝関節と足関節を有する脚の開発

 先行研究により,人間の走行運動には以下の特徴があることが分かっています.
   1. 走行運動の立脚期の膝関節および足関節はねじりばねにモデル化できる.
   2. 走行速度に応じて,膝関節および足関節のばね定数が変化する.
   3. 走行運動の遊脚期に膝関節を6.5[rad/s]で屈伸させる.
   4. 走行運動の立脚期に膝関節に177[Nm]のトルクがかかる.
 本年度は各関節に2枚の板ばねを搭載することによりねじりばね性を模擬しました(Fig. 7).また,板ばねのばね定数は板ばねの有効長により変化する性質に着目し,膝関節の関節弾性を調整する弾性調整機構を搭載しました(Fig. 8).
 遊脚期に膝関節を6.5[rad/s]で屈伸させ,立脚期に177[Nm]のトルクに耐えるためには電磁モータと減速機のみで実現すると人間の脚の寸法に収めることができません.そのため,セルフロック機能を有するウォームギアを使用した膝関節屈伸機構を搭載しました(Fig. 9).これにより遊脚期に電磁モータが膝関節を屈伸させるためのトルクは伝達されますが,立脚期に膝関節にかかる177[Nm]のトルクは電磁モータには伝達されなくなり,モータと減速機の小型化が行え,膝関節屈伸機構を人間の寸法に収めることができました.

Fig. 11 膝関節と足関節を有する脚

Fig. 12 弾性調整機構

Fig. 13 膝関節屈伸機構


[関連論文]
・ Takuya Otani, et al., "Knee Joint Mechanism That Mimics Elastic Characteristics and Bending in Human Running," Proceedings of the 2015 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2015),pp. 3969-3974,Hamburg, Germany, September, 2015.

2015年

■ 着地位置変更による走行速度変更

 脚に複数の関節を持つとその関節角度が変化すると床反力の方向も変化してしまいます.その時に,床反力が重心を貫いてなければ上下方向の跳躍力が減少することになり,また安定した走行も困難になります.そこで,床反力の向きを推定し,重心を貫く脚の関節角度を導出することにしました.さらに,着地位置を変更することで跳躍力を前後方向にも制御することで走行速度の変更が可能となりました.
片脚走行実験

[関連論文]
・ Takuya OTANI et al., "Running with Lower-Body Robot that Mimics Joint Stiffness of Humans," Proceedings of the 2015 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2015), pp. 3969-3974, Hamburg, Germany, September 2015.

■ 蹴り出しが可能な膝関節機構の開発

 骨盤の運動と関節のばね性により,片脚での走行は実現できました.そこで,より速い速度での走行や走り始めるときのエネルギー不足を解消するために,力強く地面をけることができる膝関節を開発しました(Fig. 10).これまでの要求仕様を満たし,さらに力強く蹴り出すことができるために逆駆動性も考慮したウォームギアを使用した膝関節機構を搭載しました.これにより電磁モータの力は伝わりやすく,外から(地面から)の力は伝わりにくくすることができました.
 さらに,関節のばね性を模擬するための板ばねも鉄(密度:7.8[g/cm2])では重くなってしまうため,CFRP(密度:1.5[g/cm2])の板ばねを採用しました.しかし,1枚の板ばねでは応力が集中し,強度が不足するため搭載できませんでした.そこで,2枚の板ばねを重ねることによって1枚当たりの応力を減少させることで搭載が可能になり,人間に近い寸法・重量で軽量高出力の膝関節を開発することができました.
 これまで1回の蹴りで跳躍できなかったのが,膝関節で蹴り出すことで1回の蹴りで跳躍を実現できました.

蹴り出し跳躍実験

Fig. 14 膝関節機構


[関連論文]
・Takuya Otani, et al., "Joint Mechanism That Mimics Elastic Characteristics in Human Running," Machines 2016, 4(1), 5, 2016.

2016年

■ 角運動量制御

 人間は走行中に下肢で生じるYaw方向の角運動量を,上半身の動作により生じる角運動量によって補償するという特徴があり,Yaw方向の走行安定化を図るに当たり,この特徴を模擬することが重要です.そのため,走行中の上半身の動作を決定するために,下肢で生じる角運動量の値を得る必要があります.そこで,下肢の動作から下肢で生じるYaw方向の角運動量を計算し,そこから全身のYaw方向の角運動量が0になるような上半身の角運動量を決定することで,上半身の動作を生成する角運動量制御を開発しました.この制御を用いて,上半身を動作させることで,期待を宙吊りにした状態で,下肢のYaw方向の角運動量を上半身で補償できることを確認しました.
角運動量補償実験

[関連論文]
・ Takuya Otani, et al., "Angular Momentum Compensation in Yaw Direction using Upper Body based on Human Running," Proceedings of the 2017 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2017), pp. 4768-4775, 2017.

■ 人間と同等の角運動量が発生可能で人間の質量特性を模擬した上半身機構の開発

 これまでに本研究の走行ロボットは,ガイドによって拘束された状態において,片足での連続跳躍を実現しました.しかし,本ロボットには上半身機構がないため,人間の走行中の上半身の特徴を模擬することができませんでした.特に上半身によって下肢で生じる角運動量を補償するという特徴は人間と同様に走行を安定化させるため重要な特徴であると言えます.そのため,上記の特徴を満たすために必要な自由度(肩Pitch,Roll,Yaw,体幹Pitch,Roll,骨盤Yaw,肘Pitch)を有し,各関節は,5.0[m/s]の走行動作をするために要求される角速度,トルク,可動角を発揮できるような設計を目標としました.また,人間の質量特性やリンク長を模擬することで,人間と同等の角運動量を発生可能な上半身機構を開発しました.
 上半身機構はFig. 7の腕部機構およびFig. 8の体幹機構からなります.腕部については,高速高可動域な動作を行うために軽量高出力なブラシレスモータで駆動するシリアルリンク機構を採用しました.また,質量要求仕様を満たすために構造部材の大部分にCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を採用しました.また,体幹については,バッテリーなどを搭載した上で,人間の質量にする必要があるため,CFRPパイプで構成することで軽量化を図りました.また,Fig. 9のように,重心位置が左右方向のいずれかに偏ると,跳躍中に機体が傾き,転倒の可能性が高まることが予想されたため,両側に同一のモータおよび減速機を配置して,2つのモータで体幹Pitch軸を駆動するダブルモータ機構を採用しました.その結果,人間の質量特性(質量,重心位置,慣性モーメント)およびリンク長を有した上半身機構を製作することができ,走行動作をさせた際に人間と同等の角運動量を発生可能であることを確認しました.

Fig. 15 上半身機構

Fig. 16 腕部機構

Fig. 17 体幹機構


Fig. 18 ダブルモータ機構(体幹Pitch)

○上半身角運動量計測実験


[関連論文]
・ Takuya Otani, et al., "Upper-Body Control and Mechanism of Humanoids to Compensate for Angular Momentum in the Yaw Direction Based on Human Running," Appl. Sci., 8, 44 2018.

■ 能動動作と路面への倣い動作が可能な足関節・足部機構の開発

 先行研究や当研究室で実施した人体運動計測により,人間の走行運動中,特に足関節まわりには以下の特徴があることが分かっています.
   1. 走行運動の立脚期の膝関節および足関節はねじりばねにモデル化できる.
   2. 走行速度に応じて,膝関節および足関節のばね定数が変化する.
   3. 走行運動の遊脚期に足関節を4.6[rad/s]で屈伸させる.
   4. 走行運動の立脚期に足関節に180[Nm]のトルクがかかる.
   5. 走行運動中の着地時に,路面に倣うように足関節・足部が振る舞う.

 これまで骨盤の運動と脚関節のばね性により,片脚での連続跳躍は実現できています.しかし,ロボットの足関節は人間のように動かすことはできず,また路面に足裏をつけて立ち続けることはできませんでした.そこで,走行動作実現のための要求仕様を満たしつつ,人間のような足首の動きができるように下腿部に2つのブラシレスモータを搭載し,膝関節と同様にウォームギアを利用することで,着地時に関節に加わる路面からの強い力に耐えうる足関節機構を開発しました.足関節周辺にモータを2つ搭載してしまうと,サイズが大きくなることや脚先が重くなってしまうことから,そのうちの1つのモータを膝関節のすぐ下に配置し,4節リンク機構を介して回転運動を足関節まで伝える工夫をしています.これにより,走行動作に必要な力を発揮でき,かつ人間のようなスリムな足首に近づけることができました.足裏は3点で路面と接することができるようになっており,ロボットが両脚で立ち続けることも可能です.
 さらに,本年度新たに“人間は走行運動中の着地時に足部の外側から着地し,路面に倣うように足首や足部を動かしている”ことが人体運動計測により判明しました.そこで,関節に搭載しているCFRP板ばねを,着地するとたわみ変形だけでなく,同時に捻れるような足部機構にしたことで,関節のばね性の模擬に加えて,着地時に路面に足裏を倣わせるようにすることができました.これにより,ロボットは跳躍動作中に,路面に足部を倣わせながら着地することが可能になりました.

Fig. 19 足関節機構

Fig. 20 足関節機構 (Pitch軸)

Fig. 21 足関節機構 (Roll軸)


跳躍動作中の倣い動作確認実験

Fig. 22 足部機構による路面への倣い動作


[関連論文]
・ 夏原他,"骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発 (第14報: 弾性要素を有し能動動作と路面への倣い動作が可能な足関節・足部機構),"日本ロボット学会第34回記念学術講演会予稿集,RSJ2016AC3Y2-01,山形県,2016年9月.

2017年

■ 角運動量を考慮した跳躍時体幹制御

 これまでの研究では,走行時の安定性が不十分であるため,特定の方向に回転しないように拘束した状態でなければ走行することが出来ませんでした.人間の走行中は跳躍中に腰部姿勢が水平に維持されることが言われており,2足ロボットにおいても跳躍中の腰部姿勢を水平に維持することは跳躍から立脚に切り替わる際に同じ条件を維持することになるため,安定した走行に有効であると考えらます.
 そこで,腰部姿勢を水平に維持することを目標とし,下半身の運動により生じる角運動量を算出し,腰部姿勢のずれに応じて全身の角運動量を制御するよう上半身の運動を決定する角運動量制御を開発しました.動力学シミュレーションによる評価実験において,開発した制御を用いることで動作継続時間を延長できることを確認しました.
跳躍時体幹制御シミュレーション

[関連論文]
・ Takuya Otani, et al., "Trunk motion control during the flight phase while hopping considering angular momentum of a humanoid," Advanced Robotics, 32, 8, 2018.

■ 低速走行から高速走行への遷移に対応した広範囲剛性可変機構の開発

 先行研究や当研究室で実施した人体運動計測により,人間の走行運動中,脚の関節には以下の特徴があることが分かっています.
   1. 走行運動の立脚期の膝関節および足関節はねじりばねにモデル化できる.
   2. 走行速度に応じて,膝関節および足関節のばね定数が変化する.
   3. 走行運動の立脚期に180[Nm]のトルクがかかる.

 これまでの研究にて,人間と同等の関節弾性および大きなトルクの発揮を実現していましたが,走行速度を変更する際に広く必要となる関節剛性範囲は,人間の高速走行時の高い弾性値しか模擬できていませんでした.そこで新たに低速走行から高速走行への遷移に対応した膝関節剛性を模擬するために,広い剛性範囲を持ち遊脚期間中に最低剛性から最高剛性まで能動的に変化可能な剛性可変機構を開発しました.はじめに,人体計測に関する先行研究および人体計測データから要求仕様を決定しました.2.0[m/s]の走行時の関節剛性320[Nm/rad]を下限とし,6.6[m/s]の走行時の関節剛性790[Nm/rad]以上の十分に高い関節剛性を発揮できればあらゆる速度の走行に対応できると考えました.さらに,既存の2足歩行ロボットと同様に関節に回転ばね要素を持たない状態,つまり関節剛性が理論上無限大を実現することで既存の2足歩行ロボットと同様の歩行ができるため,既存の2足歩行ロボットの関節剛性としてWABIAN-2の股関節Roll軸剛性3000[Nm/rad] を最大剛性の要求仕様としました.
 これを実現するため,これまでの長方形板ばねに対し低剛性化が可能となる台形重ねCFRP板ばね(Fig. 23)を弾性要素とし,板ばねの荷重位置ではなく固定点位置を能動的に変化させる方式により広い剛性範囲を実現しました.固定点位置を移動させるために,ボールねじと高耐荷重直動ガイドを用いた剛性可変機構を開発しました(Fig. 24).開発した機構の性能を評価するため,剛性範囲とトルク強度,可変速度を確認する実験を行い,機構が要求仕様を満たす剛性範囲とトルク強度,可変速度を発揮できることを確認しました.
 今後はWATHLETE-1に搭載し,低速走行から高速走行への遷移の実現を目指します.

Fig. 23 長方形板ばねと台形板ばね


Fig. 24 固定点可変剛性可変機構


[関連論文]
・ 赤堀孝太他,"骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発(第16報:広範囲剛性関節機構のための台形 CFRP 重ね板ばね),"日本ロボット学会第35回記念学術講演会予稿集,3L1-04,埼玉県,2017年9月.
・ 尾原睦月他,"骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発(第17報:低速走行から高速走行への遷移に対応した広範囲剛性可変機構),"日本ロボット学会第35回記念学術講演会予稿集,2L1-03,埼玉県,2017年9月.

2018年

■ 能動駆動と弾性発揮を活用する跳躍運動の実現

 これまでの研究では,アクチュエータと弾性要素を併せ持つ関節機構を開発してきました.しかし,アクチュエータと弾性要素は直列に配置されているため,弾性要素に蓄積されたエネルギーを発揮して伸展している際にアクチュエータも同等以上のトルクを発揮し続けなければなりません.そのため,これまでは遊脚時にはアクチュエータを使用して関節角度の位置制御を行い,立脚時は弾性要素の変形のみにより関節動作を実現してきました.
 しかし定常走行時は上記のように位置エネルギーを弾性エネルギーとして蓄積できますが,立位から跳躍する際には弾性エネルギーをあまり蓄積できないのでアクチュエータと弾性要素を合わせて駆動する必要があります.
 そこでcountermovement jump(Fig. 25)を参考に弾性を考慮した重心軌道と及びそれを実現する関節角度を生成し,動力学運動式を用いて各関節のアクチュエータ動作を生成(Fig. 26)することで跳躍運動を達成しました.

Fig. 25 countermovement jumpの概要図


Fig. 26 関節弾性を考慮した跳躍運動生成


[関連論文]
・ Takuya Otani, et al., "Jumping Motion Generation of a Humanoid Robot Utilizing Human-like Joint Elasticity," Proceedings of the 2018 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2018),pp. 8707-8714,Madrid, Spain, October, 2018.

■ 跳躍・走行時の能動蹴り出しや走行速度の変化に対応した足関節機構の開発

 先行研究や当研究室で実施した人体運動計測により,人間の走行運動中,脚の関節には以下の特徴があることが分かっています.
   1. 走行運動の立脚期の膝関節および足関節はねじりばねにモデル化できる.
   2. 走行速度に応じて,膝関節および足関節のばね定数が変化する.
   3. 走行運動の立脚期に190[Nm]のトルクがかかる.
   4. 足関節は走行時の立脚期において吸収する弾性エネルギーより関節が出力するエネルギーのほうが多い.

 これまでの研究において,膝関節においては人間と同等の関節弾性および出力トルクの発揮を実現していましたが,足関節においては人間の高速走行時の関節剛性の模擬しかできておらず,また立脚中に能動的に駆動することができませんでした.そこで新たに立脚中においても足関節を能動的に駆動でき,走行速度に応じた剛性に変更可能な機構を持つ足関節機構を開発しました.はじめに,人体計測に関する先行研究および人体計測データから要求仕様を決定しました.能動的に蹴り出すためには立脚時の最大トルク190[Nm]を出力できなければなりません.また2.0[m/s]の走行時の関節剛性250[Nm/rad]を下限とし,5.0[m/s]の走行時の関節剛性325[Nm/rad]以上の十分に高い関節剛性を発揮できれば走行速度の変化に対応できると考え要求仕様としました.
 これを実現するため,関節の出力向上を目指し蹴り出す関節(Pitch軸)をダブルモータとしました(Fig. 27).また弾性要素としてはCFRP製の台形と長方形の重ね板ばね(Fig. 28)を直列に配置することで低剛性を実現しました.Pitch軸のアクチュエータを上部に搭載し4節リンクで伝達することで剛性可変機構のスペースを確保しました.また足部は板ばねと機構の回転中心がずれると関節剛性がその分非線形になるので4節リンクを使うことで回転中心のずれが起きないようにしました(Fig. 29).開発した機構(Fig. 30)の性能を評価するため,剛性範囲と出力トルクを確認する実験を行い,剛性範囲は要求仕様を満たしたものの,出力トルクは要求仕様を満たせませんでした.これは使用予定だった高出力なモータドライバを使えなかったためです.
 

Fig. 27 ダブルモータ


Fig. 28 CFRP製台形及び長方形重ね板ばね



Fig. 29 足関節機構リンク


Fig. 30 足関節機構


[関連論文]
・ Hiroki Mineshita, Takuya Otani, Kenji Hashimoto, Masanori Sakaguchi, Yasuo Kawakami, Hun-ok Lim and Atsuo Takanishi, “Robotic Ankle Mechanism Capable of Kicking While Jumping and Running and Adaptable to Change in Running Speed,” Proceedings of the IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots (Humanoids 2019), pp. 529-534, Tront, Canada, October, 2019.


Last Update: 2019-Nov
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