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WTA-2R

肝臓領域の
自動走査制御系
システム

1.研究背景
2.肝臓超音波診断
3.システム構成
4.評価試験
5.謝辞・リンク
研究業績
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1.研究背景

はじめに

 現在,我が国の医療分野における問題として,超高齢社会の到来や医師の局在化による無医村の存在などが挙げられる. また,画像診断の中で超音波検査は,低侵襲,装置が小型で安価,リアルタイム画像が得られるなどの利点がある一方で, 専門的な知識や経験が必要で,検査者によって得られる画像にばらつきがでるという問題がある.
 これらに対する解決策として,本研究では医師のタスクの一部または全部を代行する自律的な超音波診断ロボットシステムを提案する. これにより無医村問題への解決手段となるのみならず,検査者によらない再現性の良い検査が期待できる.

本研究の目的

 本研究では一般的な超音波検査の対象である腹部領域を対象としてロボットが能動的に診断画像を取得するシステムの構築を目的とする. 対象臓器は体表に近く比較的観察が容易な肝臓に限定し,6 自由度産業用ロボットを使用し,超音波プローブで患者を全自動で走査して 肝臓を完全に見落としなくスキャンし,画像を得る制御系を目標とする. 

2.肝臓超音波診断

肝臓超音波診断

 ロボットによる自動走査手順は一般的な肝臓超音波検査の専門書にしたがって作成した.
 肝臓超音波診断におけるプローブ走査は大きく縦走査(プローブを体幹に平行に当てる),横走査(プローブを体幹に垂直に当てる)に分けられ, 縦走査については正中縦走査(みぞおち周辺域),右肋間走査(肋骨の間から見える領域), 横走査については正中横走査(みぞおち周辺域),右肋骨弓下走査(肋骨弓に添わせる)に分かれる. これらを順番に行うことで,肝臓を完全に見落としなく観察する.
  又全走査を通じて肝臓を広範囲に見るために扇動走査を行い,患者体位は仰臥位とした.鮮明な画像を得るために臨床では呼吸を患者に指示す ることがあるが, 本研究では人が都度指示することとした.

肝臓走査手技

要求仕様

    

 要求仕様を次の通り定義した.
 (1) 初期位置(みぞおちの上)を決めると人の介入は行わず
   全自動で走査する.
 (2) 肝臓超音波検査の専門書に従った走査手技を行う.
 (3) 肝臓を完全に見落としなくスキャンする.
 (4) 取得した画像を医師が見て診断可能である.

  これらを達成するための技術的な要素は以下の通りである.
 (a) 体格の違いや呼吸による体表の変動によらず体表にプローブを
   密着させるための力制御および画像フィードバック.
 (b) 肝臓辺縁部を判定するための画像認識

  
扇動走査

3.システム構成

概要

 肝臓領域の自動走査制御系システムは,6自由度産業マニピュレータ,6軸力覚センサ,超音波診断装置,制御PCおよび画像キャプチャーボードから成り立っており, その全体図,構成図は下記のようになっている.
 走査手技のパターン設計により定められた4つの走査および扇動走査軌道がパターンジェネレータよりマニピュレータに与えられる.
 皮膚からプローブへ加わる反力を,マニピュレータ先端に取り付けられた6軸力覚センサにより検知し,軌道を修正することによりプローブと体表の接触を押圧一定制御で保つ.
 マニピュレータの先に取り付けられた超音波プローブにより取得された超音波診断画像はビデオキャプチャによりPCに取り込まれる. 走査の最中,超音波画像情報をもとにプローブの位置・姿勢補正(画像欠け補正)を行うことで常に医師が見て診断可能な画像の状態に保つ.

自動走査制御システム全体図


肝臓領域の自動走査制御系構成図

(1)走査手技のパターン設計

 肝臓の各部位に応じた走査開始点を数点あらかじめ設定しておく.現在位置から走査開始点まで,関節角を線形補完することでプローブを移動する.
 関節角指令で与えているのは,手先の位置指令で与えると可動範囲外や特異点を通過する軌道が生成される可能性があるためである.
 走査開始点に到達後,プローブ先端座標系での位置指令により,プローブを体表に沿って滑らす動作と扇動動作を与える. パターンジェネレータによりこれら動作を順次切り替えながら実行させる.

走査手技

(2)押圧一定制御

 呼吸による体表の変動や体表の凹凸の個人差にかかわらずプローブと体表の接触を保つ必要がある.
 パターンジェネレータにより与えられた6軸上のプローブ軌道のうち,体表の法線方向並進1軸のみ力制御により修正を加えることで,押圧を一定に保ちながら走査する.
 超音波プローブの先端座標で力を検知する必要があるため,力センサ座標系から超音波プローブの先端座標系に変換し,押圧一定制御はコンプライアンス制御を実装した.

  
力制御構成図
力制御構成図
仮想コンプライアンス制御
仮想コンプライアンス制御

(3)画像欠け補正

 プローブ端面の左端または右端が皮膚表面から浮いてしまうと,超音波画像の左端または右端に断層画像が現れず,その部分は黒く表示される.
 これを検知する為画像を縦に5分割し,各領域の平均輝度を求める.端二つの領域の平均輝度が閾値より小さければその部分の画像が欠けていると判定し, 欠けている方に向かってプローブをヨー軸周りに回転させ,欠けを補正する.

画像欠け補正
画像欠け補正式

4.評価試験

(1)押圧一定制御評価

 押圧一定制御をロボットに実装し,20代男性被験者1名に対し検証試験を行った.
 超音波プローブをみぞおち付近の肋骨上に乗せ,被験者に呼吸してもらい皮膚反力を力センサで計測した.
 力制御のフィードバックゲインは,大きく深呼吸した際でも振動しない程度に調整した.
 結果,押圧指令値250[gf]に対し誤差が±50[gf]となった.

押圧一定制御

(2)性能評価試験

 一連の自動走査システムをすべてロボットに実装し,プローブを被験者のみぞおち上にセットしスタートボタンを押した後,  緊急停止以外は人手の介入を行わず,20代男性被験者1名に対して動作試験を行った.
 結果は,下記の@)A)のようになった.

肝臓自動走査
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  肝臓自動走査

@)アンケート

 フェーズを4つの走査に分け,それぞれにつき以下の評価項目を設け,検査者(医師1名,超音波技師2名)により評価を行った.
@画像明瞭度(自動走査により取得した超音波画像のうち明瞭な部分を検査者が見て診断可能かを判断)
A走査軌道(ロボットによる走査の様子を検査者が見て,肝臓内に走査漏れ領域があるか否かを判断)
B画像の欠け(自動走査により取得した超音波画像を検査者が見て,欠けが発生していないか・発生していても診断可能かを判断)

 項目「画像明瞭度」については,明瞭に取得できている画像は非常にはっきりと映っており診断することのできる画像が得られていると全検査者が回答した.
 項目「走査軌道」に関しては正中縦走査についてはほぼ十分な走査ができている一方,他3つの走査は不十分という結果であった.
 「画像欠け」に関しても同様に正中縦走査についてはほぼ十分,他3つの走査は不十分という結果であった.

評価結果

A)未確認肝臓領域

 肝臓の模式図を用意し,実際の走査風景と取得した超音波画像より未確認の肝臓領域を検査者が図中に記入した.
 未確認肝臓領域は主に,肝臓の外側端部分,右葉の肋骨部分,右肋骨弓部分であった.

未確認肝臓領域

(3)考察

医師・超音波技師より,ロボットが実際に取得した画像をもって診断可能であるという評価が得られた.
一方で,十分な明瞭度の画像が得られていない領域,走査していない領域が存在した.
万人に適用可能なシステムとするためには,超音波画像から肝臓領域を認識し,辺縁まで走査したことを確認する機能が必要である.
また,今回実装しなかったプローブのz軸周りの回転による走査が臨床で用いられていることが評価試験後に判明するなど,ロボットに実装する走査手技のブラッシュアップが必要である.

5.謝辞・リンク

 共同研究者である東京女子医科大学の斉藤明子先生,姫路獨協大学の菅原基晃先生,東京都市大学の仁木清美先生, 日立アロカメディカル株式会社の皆様に感謝いたします.
 また,3DCADソフトウェアをご提供して頂いた ソリッドワークス・ジャパン(株)に感謝いたします.
 本研究は早稲田大学の人を対象とする研究等倫理審査委員会の許可を得て実験を行っています.

姫路獨協大学
東京都市大学
東京女子医科大学
日立アロカメディカル株式会社
ソリッドワークス・ジャパン株式会社

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