新生児蘇生法 シミュレータ WAKABA-4

概要


新生児の約15%は仮死状態で生まれてきてしまうため,何らかの蘇生措置を必要とします.日本では1年間におよそ100万人の新生児が生まれているため,年間10万人以上の新生児が蘇生措置を必要とすることになります.そこで正しい措置を行うために,新生児蘇生法(NCPR)と呼ばれるガイドラインが日本周産期・新生児医学会によって設けられています.しかしながら,新生児の出生場所は病院,産科診療所,助産所など様々であり,専門医が分娩に立ち会えない事例も多いです.そのため,専門医だけでなく,分娩にかかわる全ての医療従事者(産科医,助産師,看護師など)が新生児蘇生法の訓練を行うことが重要視されています.

新生児蘇生法を普及するため,マネキンシミュレータを用いた講習会が開かれています.しかしながら,動かないマネキンを使うため臨場感が低いという問題や,新生児の病態説明や訓練者へのフィードバックを一人の指導者が行うため負担が大きいという問題があります.

これを受けて私たちは,ガイドラインに沿った各種シナリオが再現可能で,手技の定量的評価に基づいた助言提示機能を持つ,新生児蘇生法トレーニング・システムの開発を目的としています.2019年度には,新生児蘇生法のアルゴリズム中で新生児の状態を判断する指標となる自発呼吸動作及び陥没呼吸動作の再現が可能な新生児シミュレータWAKABA-4(WAseda Kyotokagaku Airway BAby-No.4)を製作しました.

図1 WAKABA-4外観

機体の内部構造


WAKABA-4はWAKABA-1~3と同様に健常な新生児の平均的体格を模擬しており,顔や手足には柔軟素材を用いてヒトに近い外見となっています.また,口から肺までの気道も柔軟素材を用いており,舌や喉頭蓋,食道への分岐なども再現されています.これらの柔軟部品は,共同研究を行なう株式会社京都科学が製作しました.

WAKABA-4は,自発呼吸動作再現機構及び陥没呼吸動作再現機構が搭載されており,WAKABA-2で搭載された胸骨圧迫手技計測機構がそのまま搭載できる構造となっております.二つの呼吸動作再現機構は,ダイレクトドライブモータの回転運動を円盤カムを用いて直動運動へと変換することで腹部の上下動作を再現します.電磁石を用いてモードの切り替えを行うことで1つのモータで複数の呼吸動作を再現しました.以下に機体の内部機構の写真,呼吸動作再現機構の概要図,呼吸動作時の腹部の様子を示します.

図2 WAKABA-4の内部機構

図3 呼吸動作再現機構の模式図


今後は,筋緊張や心拍などのさらなるバイタルサイン模擬機能の追加と,WAKABA-1との機能の統合を進めていきます.


本研究は,国立成育医療研究センター新生児科にご協力頂いております.

動作


関連文献


桃井啓伍,武部康隆,小川駿也,片山保,影山稔,高西淳夫,石井裕之:"新生児蘇生法トレーニング・システムの開発―自発呼吸と陥没呼吸の再現が可能な新生児シミュレータの設計・製作―",第38回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H1-06,2020. (受賞:日本ロボット学会第2回研究奨励賞)