WL-16RV概要

WL-16RVは,脚機構にスチュワートプラットホーム型パラレルメカニズムを採用しており,パラレルメカニズムの高出力を生かし,人や物を乗せて歩行を行うことができます.基本構造および歩行制御方式はWL-16と同様ですので,こちらをご覧ください.

WL-16RVの仕様は以下のようになっております.

▽寸法・重量
全高 [mm] 1431
重量(バッテリ抜き) [kg] 61
総重量 [kg] 75
▽機構
リンク形式 スチュワートプラットフォーム
自由度 片脚6 × 両脚 = 12
▽アクチュエータ
原動機 DCサーボモータ × 8
ACサーボモータ × 4
定格出力 [W] 150(DC)
200(AC)
▽コンピュータ・電装
CPU PentiumV 1.2[GHz]
バッテリ リチウムイオンバッテリ
センサ類  ・ 6軸力覚センサ × 3
 ・ 3軸姿勢角センサ × 1
 ・ ロータリエンコーダ × 12
 ・ フォトマイクロセンサ × 12
▽性能
歩行周期 [s/step] 0.8 〜 2.0
歩幅 [mm/step] 0〜300
可搬重量 [kg] 70

▲TOPへ戻る





稼働時間の向上 -モータ冷却機構の開発およびモータの変更-

1.研究目的

2006年度に開発された人間搭乗型2足歩行ロボットWL-16RIVは,耐久性の向上と積載荷重の向上をはかったことにより80kgのおもりを積載しての歩行,および75kgの成人男性を乗せての歩行に成功しました.しかしながら,稼働時間がバッテリーの容量ではなくモータの発熱によって制限されていたので,発熱を抑制することで稼働時間の向上をはかるためにモータ冷却機構の開発を行いました.しかし,冷却だけでは発熱を抑制し切れなかったために発熱の大きい箇所に関してはモータの変更も行いました.


Fig .1 リンク配置



2.モータ冷却機構

冷却方法としては,シートシンク,ファン,ヒートパイプ,ペルチェ素子,水冷などが挙げられます.2足歩行ロボットに使用するということで,軽量,省電力であることを重視し,ファンとヒートシンクを併用することにしました.

Fig .2 モータ冷却機構(外観および分解図)



3.評価試験機

ロボットを用いて冷却実験を行う際にロボットや路面のモデル誤差の影響により実験の再現性が得られず,モータ冷却機構の評価ができないことが想定されましたので,ロボットで実際に使用されている直動アクチュエータを用いて評価試験機を製作することによりこの問題に対処することとしました.



評価試験機動作様子


(重量30kg:階段昇時60〜70kg相当の負荷)





4.モータの変更

評価試験機を用いてDCモータの冷却実験を行っていった際に,モータのハウジングの温度は抑えられていたがモータの巻線が焼けてしまうといったことが起きました.これは,DCモータの場合モータ巻線とハウジングの間にはすき間があることにより空気という断熱層があるために起きたのだと考えられました.モータの仕様で巻線の許容温度は155℃だとわかっているのでハウジングとモータ巻線の温度差は100℃以上であったと考えられます.DCモータだと冷却をしても発熱を抑制しきることが困難だと考えられたため,発熱が大きい箇所のモータに関してはブラシレスモータに変更することにしました.

Fig .3 モータ表面温度の推移



5.熱流体解析ソフトによるファンの選定

ファンの選定は熱流体解析ソフトのCOSMOSFloWorksを用いて行いました.Fig.4の左がシミュレーション結果,右が評価試験機にて冷却実験を行った結果となっております.モータの温度上昇幅が14℃程度とほぼシュレーションどおりの結果が得られたのでこの時に使用していたファンを採用することに致しました.

Fig .4 シミュレーション結果(初期温度:30℃,最大温度:43.9℃)



6.評価実験

冷却機構を付けたWL-16RVに最大積載重量である70kgのおもりを載せてその場足踏みをさせて冷却実験を行った結果,モータの温度上昇幅は約5℃程度におさまりました.Fig.5にはモータ冷却機構を使用していなかったWL-16RIVにて最大積載重量80kgを載せて同実験を行った際の実験結果も比較として載せてあります.

Fig .5 モータ冷却機構の有無の比較(※冷却機構有:70kg,冷却機構無:80kg)



▲TOPへ戻る





着地衝撃緩和を目指した不整路面適応制御
(着地衝撃緩和不整地路面適応制御)

1.研究目的

着地軌道修正制御の使用時において路面へのならい動作の際に大きな着地衝撃が発生してしまうという問題がありました.これの原因としては足先高さ方向の軌道修正が短い歩行周期では不完全であることが上げられ,継続的に歩行安定性に悪影響を与えると考えられます.そこで本研究では不整路面歩行時における着地衝撃緩和を目標とし,まず着地衝撃緩和を目指した歩行パターンの生成法,そして,着地衝撃緩和を目指した新たな不整路面適応制御の開発を目的と致しました.本手法は以下の5つのポイントからなります.

凹路面を想定した足先高さの最終到達位置修正動作
位置ゲインを能動的に変更することによる脚部コンプライアンスの制御
着地時における足先速度制御
Roll,Pitch方向へのならい動作
1歩ごとの基準歩行パターンへの復帰動作

凹路面を想定した足先高さの最終到達位置修正動作

着地軌道修正制御ではその手法から,着地位置が凹路面であると判断できるのは遊脚後期の終了間際で,残された極僅かな時間で凹路面に適応するには,急激に足先速度を路面方向に増速しなければならないため着地衝撃も大きく発生していました. そこで,凹・凸両路面に対して同等にならえる手法として,足先高さの最終到達位置を歩行パターンで定められた基準面よりも下方に設定することで,凹路面にも対応することにしました

(a) 着地パターン修正方法
(b) 衝撃緩和を図った新しい路面適応制御

Fig .6
凹路面への適応

位置ゲインを能動的に変更することによる脚部コンプライアンスの制御

コンプライアンスを遊脚期において能動的に位置ゲインを低減させ見かけのコンプライアンスを上げ,さらに 遊脚後期において,足底の進行方向側を上げることで着地時の衝撃力ベクトルとの内積が一番小さくなるアクチュエータ部に集中的に力を加えるように着地することにより,大きな追従誤差を生じさせ,足先において大きなコンプライアンスが得られるようにしました.

Fig .7 脚部機構を考慮した際の着地衝撃の緩和

着地時における足先速度制御

足部6軸力センサにて測定される力の微分値の立ち上がりにより着地を検知し,運動量保存則に従い,足先速度を0にすることで.フィードバック的に衝撃緩和を図りました.力の微分値を用いることにより早急な着地検知が可能で,センサドリフトを無視できるという長所があります.

Roll,Pitch方向へのならい動作

上記までの方法のみでは,着地時における衝撃を緩和は行えても,高さ方向位置を(速度=0にすることにより)固定してしまっているため,Roll,Pitch方向へのならい動作を行うことはできません.そこで,着地検知後にならい動作を行うため,脚部に仮想ばね自然長の項を加えた仮想コンプライアンス制御を導入し,足先を路面に対して一定の荷重で押し付け,発生したモーメントを利用してroll,Pitch方向にコンプライアンス制御式を導入してやることでならい動作を実現させました.

Fig .8 仮想バネ長を考慮することによるRoll&Pitchにおけるコンプライアンス移動量

1歩ごとの基準歩行パターンへの復帰動作

以上述べた着地軌道修正は遊脚期の後半に行い,z方向に関しては両脚支持期は遊脚期最後の軌道修正量を保持し単脚支持期前半に基準歩行パターンに復帰します.Roll,Pitch軸に関しては立脚期を通じて遊脚期最後のコンプライアンス移動量を保持し,次の遊脚期前半に基準歩行パターンに復帰します.

TOPへ戻る

2.実験映像

 着地衝撃緩和不整地路面適応制御により,着地衝撃を緩和させて実験室内の擬似不整地における歩行実験,および実環境の坂道における歩行実験を行いました.


不整地歩行実験


厚さが3〜20[mm]である円盤および板を配置した不整地
路面においての歩行実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
歩幅:200 [mm]

屋外歩行実験


傾斜が約7度ある坂道においての歩行実験の映像です.
歩行周期:2.0 [sec/step]
歩幅:200 [mm]
傾斜:7 [deg]
▲TOPへ戻る





搭乗者の外乱に対する補償制御(動的外乱補償制御)

1.研究目的

搭乗者が能動的に発生する比較敵大きな未知の外乱をターゲットとし,それに対応できるリアルタイム外乱補償制御アルゴリズムの考案を目指しました.搭乗者が発生する外乱は搭乗席下部に搭載された6軸力覚センサを用いて検出します.本制御アルゴリズムは,腰部補償軌道の算出,設定ZMPの変更,着地位置の変更の3つを軸に構成されています.

腰部補償軌道の算出
設定ZMP軌道の変更
着地位置の変更

腰部補償軌道の算出

歩行中にロボットに外乱が加わった際,ロボットが転倒しないようにするため,実測ZMPを後に修正される設定ZMPに一致させるように腰部を加速させることとしました.モデルは搭乗者も含めた腰部質点が,腰部重心一質点に集中する3質点近似モデルとし,ロボットに対する外乱検知は,6軸力覚センサを用いて行うこととしました. 次制御周期における腰部補償軌道の算出に関しては,求まる解は初期値問題の解となり,必ず発散解となってしまうので設定ZMPの値を操作することで発散の抑制を行った.

Fig .9 3質点モデル

設定ZMP軌道の変更

設定ZMPの変更量は腰部軌道の設定パターンからの偏差に比例ゲインを乗じて求めます.変更された設定ZMP周りに補償軌道を生成することで,腰軌道の発散を遅延または収束させる効果が生まれます.

Fig .10 設定ZMPの変更

着地位置の変更

設定ZMP軌道の変更により腰部軌道が収束しきらない場合,着地位置の変更により,設定ZMPを変更できる範囲を発散していく方向に広げることができます.着地位置変更量の算出には,一質点近似モデルを用いることとしました.

Fig .11 1質点モデル
TOPへ戻る

2.実験映像

 動的外乱補償制御により,積載重量がない場合における進行方向と横方向からの引張りによる外乱実験,および人間搭乗時における進行方向からの引張りにおける外乱実験に成功いたしました.


外乱実験(進行方向)


進行方向に人が瞬間的に引張った場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
その場足踏み

外乱実験(横方向)


横方向に人が瞬間的に引張った場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
その場足踏み

人間搭乗時における外乱実験


人間搭乗時において進行方向に人が瞬間的に引張った場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
歩幅:200 [mm]

▲TOPへ戻る





搭乗者の外乱に対する補償制御(静的外乱補償制御)

1.研究目的

本研究においてもこれまでに様々な外乱補償制御が考案されてきているが,長期的に大きな力に対応できるが,動的な力に対しては対応できません,または,瞬間的な力に対しては対応できるが,長期的な外力には対応できないなど,どの制御もメリット・デメリットがありました. そこで,特性の違う制御をうまく組み合わせることによって,より幅広い外力へ対応できる制御方式の確立を目指しました.
 本制御アルゴリズムは,腰部修正量の算出,外力の設定値の導出,設定ZMPの変更による腰部変位量の低減の3つを軸に構成されています.

腰部修正量の算出
外力の設定値の導出
設定ZMPの変更による腰部変位量の低減

腰部修正量の算出

搭乗者によって外力が加えられた場合,ZMPの変位量が生じます.このとき,腰部を単純に水平に移動させることによってZMPを元の位置に戻るように腰部の修正を行います.この際に,モデルとしてはFig.9の3質点モデルを用いました.

外力の設定値の導出

腰部6軸力覚センサによって測定した搭乗者の外力(F)は振動的になっており,この値をそのまま用いるとロボットの修正量も振動的になってしまい,歩行が不安定になってしまいます.そこで,実測外力の平均値を現在の目標値(Ftag)とし,さらに腰部に大きな加速度がかかってしまうと,慣性力の影響により歩行が不安定になってしまうので,腰部の速度・加速度に制限を設けことにより外力の目標値(Fmodif)の設定を行いました.

Fig .12 外力の修正

設定ZMPの変更による腰部変位量の低減

上記の制御は静的外乱補償であるため,例えば加わっていた外力が急になくなると,腰部位置を外力がかかっていないところまで戻すまでの間,逆に静的なつり合いが崩れ,外力が加わっていないにもかかわらず歩行が不安定になってしまいます. そこで,ある大きさまでの外力に対しては,腰部質点の位置を変更せず,設定ZMPの変更のみで対応することとします.なお,設定ZMPの変更で対応できなかった外力成分に関してはこれまでに説明した腰部修正によるモーメント補償を行うものとします.

Fig .13 外乱の切り分け
TOPへ戻る

2.実験映像

 静的外乱補償制御により,進行方向からの連続した引張りによる外乱を受けた状態における歩行,およびリアルタイム外乱補償制御との統合をしたことにより搭乗者による外乱が発生した状態でも安定して歩行することに成功いたしました. ロボットにはレベルメータが取り付けられており,1つのライン当たりが10[N]で100[N]まで表示できます.


外乱実験(進行方向)


静的外乱補償制御のみを入れて,進行方向に人が連続的に引張った場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
その場足踏み

搭乗者外乱実験


静的と動的の外乱補償制御を統合して進行方向に人が連続的に引張った場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
その場足踏み

搭乗者外乱実験


静的と動的の外乱補償制御を統合して進行方向に搭乗者が瞬間的に外乱を与えた場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
歩幅:100 [mm]

▲TOPへ戻る





外部環境からの外乱に対する補償制御

1.研究目的

これまで開発してきた搭乗者の外乱を補償する制御だけでなく,ロボット外部の環境からの外乱を補償する制御を開発しました. この制御は外部環境から外乱が加わった際に,ZMP偏差から外乱の大きさを推定し,補償動作を生成して,外乱を補償します.    
 本制御アルゴリズムは,外力の推定,腰部補償軌道の算出,着地位置の変更,設定ZMP軌道の変更の4つを軸に構成されています.

外力の推定
腰部補償軌道の算出
着地位置の変更
設定ZMP軌道の変更

外力の推定

ロボット外部の環境から加えられる外乱については足部の6 軸力覚センサで検出し, Fig.11の1質点モデルに近似して,ZMP偏差から重心にどの程度の力が加わっているかを推定します.

腰部補償軌道の算出

歩行中にロボットに外乱が加わった際,ロボットの転倒を防ぐため,実測ZMPと修正量が加わった設定ZMPを一致させるように腰部を加速させます. 腰部補償軌道はFig.9のような3質点モデルに近似してZMP周りのモーメントのつり合い式から算出します. ただし,求められる解が発散してしまうため,後述の着地位置の変更と設定ZMPの変更を行うことで発散を抑制します.

着地位置の変更

足部の着地位置を変更することで,腰部軌道の発散を抑制することができます. 着地位置変更量は,Fig.11のような1質点モデルを用いて算出します.

設定ZMPの変更

設定ZMPの変更量は腰部軌道の設定パターンからの偏差に比例ゲインを乗じて求めます. Fig.10のように変更された設定ZMP周りに補償軌道を生成することで,腰軌道の発散を遅延または収束させる効果が生まれます.

TOPへ戻る

2.実験映像

その場で足踏み中のロボットに外乱を与えたところ,押された方向に補償軌道を生成することに成功しました. また,前進歩行中に外乱を与えたところ,外乱力が加わっている間はその場で足踏みをするように着地位置を変更し, それ以上外乱の発生源に近づかないような補償軌道を生成することに成功しました.


外乱実験(進行方向)


進行方向に人がロボットの腰部を瞬間的に押した後,定常的に力をかけ続けた場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
その場足踏み

人間搭乗時における外乱歩行実験(進行方向)


前進歩行中のロボットに人がロボットの腰部を押すように外力を加えた場合の外乱実験の映像です.
歩行周期:1.0 [sec/step]
歩幅:100 [mm]

▲TOPへ戻る