本研究では,ADL(Activities of Daily Living : 日常生活活動)支援RT(Robot Technology)サービスの提供を目指して,その際のインタラクションにおける身体性や表現性の影響や効果を研究,解明することを目的としています.
ADL支援RTサービスではFig. 1.1に示す家庭や公共施設などの既存の実環境下での運用が想定されます.また,ユーザがロボットに関する専門知識を持たない一般の方々であるため,ロボットとのコミュニケーションが直感的に行えることが必要であると考えられます.そこで,本研究で情動表出可能な2足歩行ヒューマノイドロボットによるサービスの提供を提案しております.これは,2足歩行であることで実環境に手を加えることなく汎用的に利用可能であることと,ヒューマンライクな情動表出がユーザにとって直感的に理解しやすいと考えられるからです.
本研究室では1995年より頭部ロボットWEシリーズの開発を進めており,2004年までに上半身のみを有する情動表出可能なヒューマノイドロボットWE-4RII(Fig. 1.2)の開発を行ってきました.また,1996年より開発を行ってきた2足歩行ヒューマノイドロボットWABIANシリーズでは,2007年度までに成人女性と同程度の大きさで歩行やダンスなど人体運動をシミュレートすることができるWABIAN-2R(Fig. 1.3)を開発しました.
そして2007年度には,情動表出が可能な上半身と2足歩行が可能な下半身を統合して,KOBIANを開発しました.
Fig. 2.1は2007年度に開発した情動表出可能な2足歩行ロボットKOBIANです.KOBIANはFig. 2.2に示すように全48自由度を有しており, 外界を捉えるためのカメラ,ハンドにて物を適切に把持するための力センサ,制御用のPCやバッテリなどが搭載されています.全重量は,62[kg]です.
![]() Fig. 2.1 KOBIAN |
![]() Fig. 2.2 自由度配置図 |
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頭部は表情表出のために7自由度を有しています.これらにより,顎の開閉,口角の上下動(左右対象),左右眼球(カメラ搭載)のピッチ回転(連動),左右眼球のヨー回転,眼瞼の開閉,眉中央部の上下動が可能となっています.頭部および内部構造をFig. 2.3 〜 2.6 に示します.
KOBIANは眉・眼瞼・目・口唇・顎による表情表出が可能です.
眉には伸縮性が高いセプトン®を使っており,眉の両端は固定され,眉中央部にはネオジウム磁石が接着されています.この磁石を顔面内側の直動するワイヤに取り付けられたもう一つの磁石で引きつけることで,眉両端に対する相対的な高さを変動させ,眉は様々な形状をとります.駆動するモータは左右で共通のため,左右対称の動作が可能となっています(Fig. 2.7, Fig. 2.8).
眼瞼,眼球のピッチ軸は機械的に連動します.これにより,例えば目を下に向けると眼瞼が自然に下りて伏し目になります(Fig. 2.9).
口唇にもセプトン®を使用しています.上唇の中央を固定し,口角の上下と下顎に中央を固定された下唇を下顎ごと上下することで,相対的に固定位置を変えて変形します.左右の口角は連動して上下します(Fig. 2.10).
首部は頭部との接続位置にピッチとヨー、また胴体との接続位置でのピッチとロールの4自由度となっています. WE-4RIIと同様首の上下両端にピッチ軸を持たせることで,顔の向きを固定したまま首を突き出したり,引いたりする動きが可能です.(Fig. 2.11)
肩のロール,ピッチ,ヨーと肘のピッチ,および手首のロール,ピッチ,ヨーの片腕7自由度を有しています. これにより,人間と同様に障害物を避けて物を取るなどの,冗長自由度を生かした動作をすることが可能です(Fig. 2.12).
手は物の把持などのタスクの他に,握手や指差しなど人間とのコミュニケーションでも頻繁に使用されます. KOBIANではADL支援サービスのために手に触ったときの感触と安全性を重視しており,構造部材が軟素材でできたハンド WSH-1RII(Waseda Soft Hand-No.1 Refined II)を開発しました(Fig. 2.13). また,WSH-1RIIは適切な力で握手を行うため,シート状の力センサflexiforce®を計14箇所に搭載しています.(Fig. 2.14)(Fig. 2.15)
掌部は人肌ゲル®で成形し,内部に骨を模した金属パイプがあります. 指部はシリコーンゴムで成形し,上から人肌ゲル®の皮を被せてあります(Fig. 2.16).
各指の屈曲はFig. 2.17のようにワイヤ駆動による劣駆動を採用しております.また,Fig. 2.18のように人差し指,中指の屈曲および親指内外転が独立1自由度になっており, 親指・薬指・小指の屈曲は各ワイヤを1本にまとめて連動する1自由度にすることで,計4自由度で動作します.ワイヤが引っ張られるとFig. 2.19のように,物体の形状に倣って指が屈曲します. また各指の伸展は,軟素材の弾性力を利用してます.
ヒトは,球状の物体を把持する場合に,親指を外転方向に開き小指と向かい合うような位置で掴むのに対し,円筒状の物体を把持する場合は,親指を内転方向に回転させ中指と向かい合う位置で把持しています. この親指の内転・外転運動を,ワイヤ駆動による1自由度で動作させることで,物体の安定した把持が可能となっています(Fig. 2.20, Fig. 2.21).
![]() Fig. 2.20 親指内外転機構 |
![]() Fig. 2.21 親指内外転 |
KOBIANでは体幹部にピッチ軸を持っています.体幹部の動きにより,歩行時にバランスを取ることができます.また,怒りでは前傾する,驚きでは後傾するなど,全身を用いた情動表出能力にも寄与しています.
より人間らしい歩行運動を可能にする機構として,腰部はヨー軸とロール軸の2自由度があります. この自由度により,上体の姿勢に依存しない腰の運動を有効に活用することで膝関節の伸展位(膝が伸びきった状態)を伴う歩行運動が可能です(Fig. 2.22).
視覚センサとして,両眼に株式会社ARTRAYのカラーCMOSカメラ(ARTCAM-022MINI) を搭載しています(Fig. 2.23).
足部に加わる荷重を計測するために,両脚足幹位置にX,Y,Z軸方向の加重およびそれぞれの軸の周りのモーメントを計測できる ニッタ株式会社の6軸力覚センサ(IFS-67M25A50-I40) を搭載しています. 計測した値を用いて歩行や全身運動時の安定化制御を行っています(Fig. 2.24).
KOBIANの全システム構成はFig. 2.25のようになっています. ロボットは,背中のPC(CPU: Pentium M 1.6GHz, RAM: 2GB, OS: QNX Neutrino 6.3.0) で制御されています.
表情の制御にはEkmanの6基本表情を採用しており,"喜び","怒り","驚き","悲しみ","恐れ","嫌悪", 6つの情動に対応する表情に"通常状態"を加えた7つの基本表情パターンをあらかじめ定義しています. KOBAINではFig. 3.1で示した表情を表情パターンとして定義しています.表情・腕・手・腰・脚による全身を用いた多様な表出が可能です.
視覚センサより指標の位置・距離を認識し,眼球・首部・腰部・体幹部および脚部を用いた指標追従が可能です.(Fig.4)
画像をクリックすることにより実験映像を見ることができます.
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HABIANは,上半身がKOBIANと等しく,下半身が車輪型のヒューマノイドロボットとして開発されました. KOBIANとの移動機構の違いとそれによる外見・動作の違いが人間に与える印象の評価と比較を行いました. HABIANの台車モジュールには日本SGI社のBlackShipを用いました. HABIANの全体写真をFig. 5.1に,自由度構成をFig. 5.2に,制御システム構成をFig. 5.3に示します. 全37自由度を有しており,外界を捉えるためのカメラ,バッテリーなどが搭載され, 背中のPC(CPU: Pentium M 1.6GHz, RAM: 2GB, OS: QNX Neutrino 6.3.0) で制御されています.
HABAINもKOBIANと同様に,Fig. 6.5のような情動表出が可能です.
Fig. 6.4 HABIANの情動表出
画像をクリックすることにより実験映像を見ることができます.
本研究は独立法人新エネルギー・産業技術総合研究機構の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(II.サービスロボット分野研究開発項目<2>「高齢者対応コミュニケーションRTシステム」)にて行われました. また,本研究は早稲田大学ヒューマノイド研究所の協力がありました.本研究所のヒューマノイドコンソーシアムへの参加企業に対して感謝の意を表します. また本研究はヒューマノイド国際研究所ROBOCASAの協力がありました.イタリア外務省文化交流振興局の研究・振興産業応用事業に感謝します. また,本研究の一部は文部科学省グローバルCOEプログラム「グローバルロボットアカデミア」の支援を受けました. 最後に,研究にご協力頂きました株式会社 ソリッドワークス・ジャパン, 株式会社 クラレ,早稲田大学理工学総合研究所に感謝の意を表します.
Last Update: 2010-07-27