骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発

Running-Robot


WATHLETE-1
(Waseda ATHLETE humanoid No. 1)



1. 研究の目的と概要
2. ロボットシステム
3. 最新の研究成果
4. 謝辞

開発の歴史(過去の成果)
全業績リスト

1. 研究の目的と概要

Fig. 1 WABIAN-2R


本研究室では2足ヒューマノイドロボットWABIAN-2R(Fig. 1)を開発し,骨盤を用いた膝関節伸展歩行などの人間の歩行運動を模擬してきました.しかしWABIAN-2Rは跳躍運動や走行運動といった,各関節に大きな出力が必要とされる運動が実現可能なようには設計されておりません.また,これまでの関連研究で,人間の走行運動の特徴を十分に模擬できているロボットは見当たりません.
そのため本研究では,ダイナミックな動作を実現し,人間の走行の模擬による走行の解明やスポーツ科学への応用を目指して,人間の歩行・走行を模擬することが可能な2足ヒューマノイドロボットの開発を目標としています.具体的にはFig.2,3のような人間の腕の振り出し,脚の弾性,多関節,前額面における骨盤の正弦波状の動揺を模擬していきます.


Fig. 2 人間の矢状面の特徴

Fig. 3 人間の前額面の特徴

2. ロボットシステム

     

Fig. 4 WATHLETE-1 (2016)

  

Fig. 5 自由度配置図

  

Fig. 6 システム構成図


 WATHLETE-1(Fig. 4)は全身で22の能動自由度を有しています(Fig. 5).また膝関節および足関節には板ばねが組み込まれており,膝関節には板ばねの有効長を変え,関節の角度を変更する能動自由度とは別に,関節の柔らかさを調節する能動自由度を有しています.
 また,Fig. 6のように,機体の各部に配置したモータコントローラにより,モータを動作させる分散制御方式を採用しています.各関節には,モータの角度を測定するインクリメンタルエンコーダを有しており,一部の自由度には出力軸の角度を読み取るアブソリュートエンコーダを搭載しています.また,機体をロボット用ガイドに拘束した場合において,間にあるシャフトの傾きから機体の重心高さを計測することが可能です.

3. 最新の研究成果




■ 弾性力と慣性力を利用した投球が可能な投球腕部機構の開発

 これまで本研究においては,人間のダイナミックな運動を模擬するヒューマノイドロボットとして走行運動に注目して開発を行ってきました. この研究では,走行以外のダイナミックな人間の運動として投球動作に着目し, 人間の投球動作を模擬するヒューマノイドロボットの開発を目標としています.
 先行研究により,人間の投球時の肩や肘の動作に関する身体的特徴について,次のことが分かっています.
1.筋肉や腱が持つ弾性を利用することで,投球中の肩の内外旋動作において弾性エネルギーの蓄積と解放を投球動作中に行っている.
2.投球中に前腕にかかる慣性を利用することで,肘関節を伸展させる筋肉に頼らずに肘を伸展させて前腕を加速させている.
 上記の2点の人間の特徴を機構として取り入れたヒューマノイドロボットの腕部を開発するために人間の投球動作を人体計測した先行研究を調査しました. 得たデータを解析した結果,人間の肩の外旋角が一定の角度を超えるとトルクと角度が線形の関係を持つことが分かりました. その傾きから,肩関節の弾性値の要求仕様を70[Nm/rad]と定めました. また,ボールリリース直前の肘伸展時において,角速度変化の大きさに対して発揮トルクが小さいことが分かりました. その時点のトルクから,肘関節の発揮トルクの要求仕様を10[Nm]以下と定めました. これらの要求仕様を満たすために,次のような機構を考案しました. 肩の内外旋の動作を行う機構には,モータ駆動による能動動作とバネを利用した弾性動作を関節角度に応じて切り替えるために,CFRP製の板ばねを利用した機構を考案しました. 慣性力を利用する肘の機構に関しては,モータからの動力伝達を任意に遮断するためにクラッチを使用した機構を考案しました.
 以上のことを考慮して腕部の機構を設計しました.また,開発した腕を評価するためには腕に慣性力を発生させる必要があり, 投球時の体幹部の動きを再現するための実験装置も設計しました.機構の有用性を評価する為に動力学シミュレータ上で検証を行ったところ, 弾性力や慣性力を利用した機構を搭載することで,アクチュエータへの負荷が軽減されたことを確認できました.

肩内外旋動作を行う機構


肘関節の機構


設計した機体(実験装置含む)


[関連論文]
・ 渡部竜也他,"人間の特徴に着目した投球ヒューマノイドロボットの開発(第1報:弾性力と慣性力を利用した投球が可能な投球腕部機構の開発),第38回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2H3-04,オンライン開催,2020年10月.


■ 高出力,剛性変化可能で人間と同等の質量特性を目指した下腿機構の開発

 先行研究や当研究室で実施した人体運動計測により,走行中の人間の脚は立脚期において圧縮ばねのように振る舞い,また,その脚の膝関節,足関節には回転ばねと同じような ばね特性を有していることが分かっています.そして,そのばね特性は走行速度に応じて変化しています.これらの特徴を模擬するべく, これまでの研究では各関節に CFRP製の板ばねを用いた脚の剛性可変関節機構を開発・搭載しました. しかしながら,昨年度開発した足関節機構では,これらの要求を満たすために質量・サイズがともに人間のものと比べて重く大きくなってしまいました. そこで,新たに関節トルク,可変な関節弾性を満たしながらも軽量な足関節機構を開発しました.
 人間の足関節は走行速度2.0〜5.0[m/s]において関節トルク190[Nm],関節弾性250〜325[Nm/rad]程度発揮しており,下腿の質量は3.3[kg]程度になっています. これらを実現するために,昨年度ではダブルモータや剛性可変機構,4節リンクを用いていましたが,それらを下腿機構内に収めるには重くなってしまうため下肢全体の配置について再検討を行いました. 具体的には下腿機構に搭載していたモータを比較的質量の余裕がある大腿部に再配置することにより下腿機構を軽量化することができます. また,4節リンクでは設計パラメータが少なく板ばねが長いままとなってしまっているため,さらに板ばねを短くできるように5節リンクを用いました. これを能動動作,受動動作を行う足関節機構に搭載するために,4節リンク機構を複合したFig. 7のような 5節4節複合リンク機構を考案しました.

Fig. 7 5節4節複合リンク機構を用いた足関節機構の概略図


  以上のことを考慮してFig. 8,9 のような機構を設計,製作しました.特に5節リンク機構の導入により板ばねの長さが昨年度の物と比べて3倍程度短くすることができるようになりました. これらの開発した機構について性能評価試験を行ったところ,モータドライバの出力可能電流の限界に達してしまったために,人間の出力トルクを満たすことはできませんでした. そして人間の下腿と比較して1.5[kg]程度重いままとなってしまいました.しかし,昨年度と比較すると性能を大きく下げることなく0.7[kg]程度軽量化することができ, 5節リンク機構を用いることに有用性があることを確かめることができました.

Fig. 8 足関節機構のCAD図


Fig. 9 製作した足関節機構


[関連論文]
・ 黒岩祐志他,"骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発(第23報:高出力,剛性変化可能で人間と同等の質量特性を有する下腿機構),第37回日本ロボット学会学術講演会予稿集,3L3-03,東京都,2019年9月.



■ 2足走行ロボットへの搭載に向けた油圧駆動股関節機構の開発

 走行中の人間の股関節において,膝関節や足関節に見られるようなばね特性はあまり見られず,膝関節や足関節よりも大きい関節トルクを発揮することが分かっています. しかし,大きな関節トルクを発揮するには電磁モータと減速機が大型化する必要があり,現行の走行ロボットの股関節機構は,人間と同等の質量配置を満たすアクチュエータのうち最大のものを用いており, 人間が歩行から走行に遷移する境界といわれる移動速度約2.0[m/s]時の股関節の関節トルク100[Nm],および関節角速度4.5[rad/s]の発揮が実現できていませんでした. そこで,股関節の出力向上のために油圧駆動を適用した股関節機構を開発しました.
 油圧駆動は高出力発揮が期待でき関節から離れた箇所に油圧機器を配置できる点で,減速機を用いた伝達機構と比較してレイアウト性が高いです. さらに,油の分流・合流性により一台のポンプから複数の関節への出力配分が可能です. これらの油圧駆動の利点を活かし,両脚に対して左右で独立に実装した油圧回路を電磁切換弁により接続し,出力配分が可能な2足ヒューマノイドロボット向け油圧回路を提案しました(Fig. 10). また,油圧アクチュエータには油圧モータと比較して質量対出力が大きい油圧シリンダを採用し,要求可動角の実現のためには4節リンク機構を採用しました(Fig. 11). リンク機構の角度変化は一般的にシリンダストロークに対して非線形となるため,関節角度のフィードフォワード制御とフィードバック制御が容易になるように,リンク特性を最小二乗法により線形に近づけました. これにより,シリンダストローク150[mm],可動角120[deg]に対して最大差が3.9[deg/mm]となるリンク比を得ました.
 以上の検討から開発した油圧駆動股関節機構(Fig. 13,Fig. 14)を評価するため,最大発揮トルクと角速度を確認する実験を行いました. 関節トルクは要求仕様を満たしたものの,関節角速度は要求仕様を満たせませんでした. これは油圧回路の連動による流量増加を考慮した配管の設計を行わなかったため,流量増加時に配管抵抗が上昇し,ポンプが最大回転速度に到達する前にポンプを駆動するモータの出力上限に到達したためです.



Fig. 10 提案油圧回路

Fig. 11 4節リンク機構



Fig. 12 股関節機構CAD図




Fig. 13 製作した股関節機構


[関連論文]
・ 水上英紀他,"骨盤運動に着目した2足走行ロボットの開発(第24報:2足走行ロボットへの搭載に向けた油圧駆動股関節機構の開発),第37回日本ロボット学会学術講演会予稿集,3L3-04,東京都,2019年9月.

4. 謝辞

共同研究者である早稲田大学スポーツ科学学術院川上先生に感謝いたします.

本研究は早稲田大学理工学研究所および早稲田大学ヒューマノイド研究所総合機械工学もの・ひと・こと研究所早稲田大学重点領域研究機構アクティヴ・エイジング研究所, 早稲田大学ヒューマンパフォーマンス研究所,早稲田大学次世代ロボット研究機構の下で実施された.本研究で用いられた3DCAD はソリッドワークス・ジャパン株式会社より提供され,ケーブル・コネクタは大電株式会社,複合領域物理モデルシミュレータ MapleSim はサイバネットシステム株式会社(開発元:Maplesoft 社)より提供された.また,本研究の一部は文部科学省の科学研究費補助金(25709019, 17H00767),文部科学省グローバル COE プログラム「グローバルロボットアカデミア」,みずほ学術振興財団,早稲田大学特定課題研究助成費(2015S-76)の支援を受けた.各社・官公庁に感謝致します.

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Last Update: 2021-Mar
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