高西研究室
環境モニタリング班
ー月面縦孔探査ー


私たちの研究班の目標

私たちは,様々な自律移動型のロボットを用いた複合的なモニタリングシステムの構築を目指しています. これまで私たちの研究では森林や泥地での探査を想定して開発を行ってまいりました. しかし近年,様々な環境でのモニタリング・探査の需要が高まっています. ロボットの移動範囲を拡大しそれらのロボットを複数台・複合的に用いることでより高度な観測システムを構築し,新たな資源の発見に向けた持続的な環境観測システムの検討を行う必要があります.

月面縦孔

月面縦穴は,この図のように月面上にぽっかりと空いた穴で,その底部には地下空洞が広がっていると推測されています. 縦穴・地下空洞共に科学的に関心が高い場所であるうえ,地下空洞は将来月面基地としての利用が期待される空間とされており, 実際に縦穴内に立ち入っての探査が望まれています. 特にこの縦穴壁面は,地層構造が露出していると考えており科学的に非常に興味深い場所になっています. 本研究では特にこの縦穴の壁面の探査を行う小型ロボットについて開発を行っています.

移動機能

壁面上を移動し探査を行うために,製作機体には以下の3つの機能を実装しました. テザーとウィンチによる上下の昇降,車輪による斜面の走行,そしてそれらでは越えられない障害物を越えるための壁面跳躍です. 縦孔は垂直に空いた孔ですので,安定した探査にはテザーにより自重を支えながらの降下が必要です. 一方で,孔上部に存在する斜面は走行により移動します. 上記二つの移動時方法では超えることのできない障害があった場合に用いる動作が,壁面跳躍になります. この動作はまず壁面を車輪で蹴り振り子動作を生み,滞空中にウィンチで昇降し障害物を越えるというものです. 小型ロボットの短所である走行性能を,月面の低重力性を生かして補う動作といえます.

姿勢制御機能


壁面上をテザーとウィンチによる上下の昇降を行う上で,機体の姿勢安定化が不可欠です. また,降下時に任意の方向へ機体の姿勢を変化させ情報取得を行うことも考えられます. これら姿勢制御を行う機能としてリアクションホイールを用いた手法を実装しました. 本研究ではテザー周りの姿勢制御が最も必要となると考え,テザー周りの1軸のみ実装しました.

耐衝撃性の向上

探査シナリオとして,ロボットは投てきによって縦孔内に侵入することや,1~2m程度の凹凸がある縦孔壁面で探査を行うことが想定されています. これまでのロボットでは,投てき後の着地時や探査中の移動時の落下による衝撃で破損してしまい,ミッションの遂行が困難になる可能性があります. そこでロボット本体の耐衝撃性能を向上させるために,駆動・動力伝達部の改良と車輪部の改良を行いました. 駆動・動力伝達部の改良では,衝撃力が直接モータ軸へ伝わらないようにタイミングベルト駆動とし,また軸径を大きくすることで強度の向上を図りました. 車輪部の改良では,車輪の縁に樹脂材を貼り付けたり,車輪の側面に金属フレームとばねを取り付けたりすることで衝突時間を大きくし最大衝撃加速度の低減を目指しました. 落下時の加速度の測定実験により,これらの改良が有効であることが確認できました.

製作機体

以上の3つの機能を実装したロボットを製作しました. 走行とこの壁面跳躍を同一車輪で実現するために,車輪形状を円形の一部がとがらせた水滴の雫のような形状にしました. このように車輪形状に工夫を施すことで,アクチュエータ数を増やし重量を増加させることなく移動性能を向上できます.

WAPIT

製作機体を用いて移動実験を行いました. 走行による乗り越え性能7.5[cm]に対して,壁面跳躍によって20[cm]の乗り越えが可能であり,単なる走行による乗り越え以上の性能を実現できました. また,屋外でのデモンストレーションを行い,類似環境として1.8[m]の岩壁にて昇降が可能であることが分かりました.