ラットの滞在時間制御

これまでの実験において,ラットはオープンフィールド4隅や壁沿いに長期滞在するという滞在傾向が強いことがされており.この結果からわれわれは,ラットは壁の周辺,特に壁に囲まれた空間での滞在を好み,オープンフィールド中央のような開けた場所での滞在を嫌うという仮説を得ました.そこで,実際に移動ロボットを用いてフィールドの形状を変化させて,ラットの滞在場所を意図したとおりに制御することで,この仮説の検証を試みました.

方法

本実験では,壁を模した移動ロボット(WOC-1)をフィールド内で2回移動させて,それによってラットの滞在場所を2回変更することを試みました.実験は,以下の3つのステップに分けて進められます.

1) step1

初めにラットをオープンフィールドの中に投入し,ラットの行動を2時間の計測をします.そして実験開始後2時間が経過した時点で,ラットの滞在時間分布を計算し,それまでの滞在時間が最大となったエリアに基づいてFig.1に示すように2つの誘導目標地点(1st target,2nd target)を決定します.

Fig. 1 step1

Fig. 1 Step1

2) step2

ステップ2では,まずロボットをステップ1で決定された1つ目の誘導目標地点に袋小路をつくる位置に移動させます.その後,ラットの滞在時間分布を計算し,ロボットが移動することで作り出した袋小路でのラットの滞在時間が最大となるまでロボットは待機します.そして,最大となった時点で,一回目のラットの滞在時間の制御が完了したと判断し,次のステップに移行します.

Fig. 2 step2

Fig. 2 Step2

3) step3

ステップ3では,ロボットを2つ目の誘導目標地点に袋小路を作る位置に移動させます.そして,ステップ2同様,その袋小路におけるラットの滞在時間が最大となった時点で,2回目の滞在制御が完了したと判断し,実験を終了します.

Fig. 3 step3

Fig. 3 Step3

実験結果

上記の手順に基づいて,実験を行いました.被験体にはウイスター・アルビノ系ラット♂17週齢×2,51週齢×21の計4匹を用いました.
以下に実験結果を示します.

結果1(17週齢,制御成功)

result1

Fig. 4 Result 1

結果2(17週齢,制御失敗)

result2

Fig. 5 Result 2

結論

一回目のロボットの移動後,4匹中3匹のラットがそれぞれの第1誘導目標地点へと移動しました.そして,2回目のロボットの移動後,それらの3匹のうち2匹のラットがそれぞれの第2誘導目標地点へと移動しました.また,誘導目標に移動しなかったラットには,ロボットの移動中に極度のすくみ反応が確認されました.

この実験結果より,「ラットの滞在傾向は実験フィールド形状に大きく左右される」,「ラットの滞在傾向を制御する手段として実験空間を変化させることが有効である」といった2つの知見を得ることができました.今後は形状以外の要因に関しても考慮し,オープンフィールドにおけるラットの滞在傾向を数理モデルとして構築していきたいと思います.